固定残業代とは?
A.固定残業代は、残業代がいくらとあらかじめ固定されている賃金体系を言います。あまり耳慣れない言葉ですが、例を挙げると分かりやすいと思います。たとえば契約書に、 「基本給は15万円、残業手当5万、役職手当3万…。残業代は、残業手当に含まれており、手当を上回る分は支給しない」と賃金を定め、残業代を固定するケースがあります。この場合、 5万円以上の残業代は払われないため、残業をすればするほど損をしてしまいます。
この残業手当5万円の支給に条件がついていたらさらに大変です。たとえば、「月の時間外労働が80時間を満たない者は残業手当を支給しない」というケースを想定します。 そうすると、月に240時間、つまり1日12時間は働かないと残業手当の5万円が支給されず、賃金は23万円から18万円になってしまいます。最近話題になっている大庄店員の過労死事件 (詳しくはPOSSEブログ(「大庄」店員過労死事件)を参照のこと。)は、 このような賃金体系が一因となり、手当を求めて働きすぎた結果亡くなった事例です。
では、こうした残業代を固定するような契約は法的に有効でしょうか?そもそも「固定残業代」は法律で認められたものではなく、会社の決めた制度にすぎません。 したがってこの制度は、どんな場合でも許されているという訳ではなく、民法・労働法上の規制がかけられています。大庄店員過労死事件の判決も、 労働者の長時間労働を前提とした固定残業代の契約を認めていません。
このように、固定残業代は、労働者の健康や生活が損なわれる恐れがあるため、たとえ「契約」だとしても必ずしも認められるとは限りません。
・企業選びで注意すること
最近相談で目立つのは、「基本給〜万円」とか「月給〜万円以上」と求人には書いてあったのに、実際に契約の段階になると固定残業〜時間が入った金額だからと説明されたという事例です。 なぜ企業がそのような「詐欺」まがいの行為をするのかというと、実際には安い給与で働かせるにもかかわらず、なるべくたくさん給与を出すように見せかけたいからです。 これで、きちんと法律が定めた週40時間で給与を示している企業よりも額面が高く見えてしまうのでは、新卒はもとより他の企業にとっても迷惑です。
そもそも「固定残業」を導入している企業には法令遵守の姿勢が乏しいといってよいでしょう。法律は一日8時間、週40時間労働を原則として義務付けており、 残業は例外的に必要な場合に限って認めているのです。国が定めた法律を前提に労務管理をしようとしない姿勢、基本給など基本情報をごまかして新卒を採用しようという姿勢は、 ブラック会社に多く見られるものだといえます。