2013/4/16
田端博邦「海外に学ぶ労働時間規制」(『POSSE vol.18』)

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POSSE vol.18


『POSSE vol.18』では「ブラック企業対策会議」を特集に据え、幅広い立場の人たちが議論を展開しています。ブラック企業の特徴として、日本の長時間労働が先進国の中でも異例であることはよく知られていますが、その一因に労働時間規制が実効性を欠いていることがあります。本誌では、労働時間規制という側面から、日本を海外と比較したときどのような規制のあり方が考えられるのか、比較労使関係論を專門とする田端博邦先生(東京大学大学院名誉教授)へのインタビューを掲載しています。


インタビューでは、日本とOECD諸国との労働時間を対比したうえで、海外で行なわれている労働時間規制の実状とその背景について論じられています。


ヨーロッパで労働時間規制を支える「三つの柱」があるといいます。すなわち、第一に、EU指令では、労働時間の上限基準として時間外労働も含めて週48時間という上限を設けられており、実質的に残業時間の際限がなくなっている日本とは対照的です。第二に、休息時間についてです。仕事が終わってから次の始業時間まで11時間の間隔を空けること、週に24時間の休息を与えることという二つが規定されており、日曜日にあたる日には24+11=35時間の間隔が設けられます。日本では勤務時間をいかに短縮化するかという考え方が主流なのに対して、ヨーロッパではいかに休息時間を確保するかという、一歩踏み込んだ規定になっているといえます。第三に、年次有給休暇についてです。ドイツやフランスでは年に5週間分の有休が定められていますが、日本ではフルタイムで6年半勤続して年20日という水準です。また有休を取得しやすいこと、有給休暇とは別個に病気休暇が設けられていることも、日本と対照的です(日本では有休消化率は50%程度にとどまり、病気欠勤を有休消化で代替することも珍しくない)。


ヨーロッパ諸国でも変形労働時間・裁量労働のような形で、労働時間の弾力化が進められていますが、こうした三つの柱が歯止めとして機能しているため、実労働時間が延びるという事態にはつながっていないのです。そして、こうした規制は、組織率の高い労働組合と労働基準監督署(監督官の数は日本の数倍以上)によって担保されています。


本記事ではヨーロッパを中心に日本と比較しながら労働時間規制の実状と背景が解説されており、求められる政策の方向性について、概観をつかむことができるのではないでしょうか。なお、規制を担保する欧米の労使関係については、田端先生の著書『グローバリゼーションと労働世界の変容』(旬報社)を併せて読むことで、より理解が深まることでしょう。


社会人ボランティア(3年目)



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『POSSE』は日本で唯一の若者による労働問題総合誌として、2008年9月に創刊しました。NPO法人POSSEのスタッフが中心となり制作し、これまで16巻を出版、4年目を迎えました。労働・貧困問題をテーマに、現状、政策から文化までを論じています。

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