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Q1.事業所は正常に運営していますが、労働者が地震によって出勤できなかった場合、その労働者の賃金はどうなりますか。(Q1の解説はこちらへ) Q2.地震に遭った使用者が給料支払を遅滞して困っています。(Q2の解説はこちらへ) Q3.使用者から、震災を理由に労働者に一時帰休(休業)を命じられましたが、労働者の賃金はどうなりますか?(Q3の解説はこちらへ) Q4.賃金確保法では、未払い退職金の支払いも受けられるのでしょうか。退職金規定はあるのですが、地震のためその賃金規定がそろえられないときはどうなりますか。(Q4の解説はこちらへ) Q1.事業所は正常に運営していますが、労働者が地震によって出勤できなかった場合、その労働者の賃金はどうなりますか。 A1.賃金の支払いを求めることは困難ですが、諦める必要はありません。 <解説> まず、賃金規定を見る必要があります。 月給制などで、賃金規定により、不可抗力による欠勤は賃金カットされないことがあるからです。仮に、規定がない場合でも慣習、あるいは合理的意思解釈として「カットなし」ということも考えられます。 又、賃金二分説(賃金は労働の対価的部分と保障的部分に分かれているとする考え方)は、賃金の本質論としては、今日では否定されている学説ですが、 賃金は労使の契約で決められるべきものですから、契約の合理的解釈として賃金のうち保障部分のみ請求できる場合もあります。次に、日給制や時給制の場合です。 賃金請求権は、債務者危険負担主義(民法536条―不可抗力のリスクは労働の債務者、つまり労働者が負うというもの)から請求することはできません(古い判例があります。ただし、学説は批判的です)。 労働基準法(以下「労基法」)26条の休業手当も、地震の場合は「使用者の責に帰すべき事由」に該当しないので、請求できません。つまり、この場合、賃金・休業手当とも支払われません。 しかし、これらの考えについてはいずれも批判があります。 また、使用者が震災の影響を受けたときは、雇用調整助成金の給付をうけて、労働者に休業手当が支払われるという途があります。 そうであれば、本問の場合は、使用者が震災の影響をうけていないケースですので、使用者と交渉し(事案によっては「従業員の出勤困難」による雇用調整助成金対象になることもあります)、休業手当を支給するよう要求してみましょう(組合が要求してすでに獲得している例もあります) A2.賃金には支払いの義務があります。最大限努力したにもかかわらず期日に間に合わなかった使用者は処罰こそされませんが、遅延損害金(利率年6%)を支払わなければなりません。 <解説> 以上は、労基法上、不処罰となるというだけであり、民事上、金銭債務は不可抗力を抗弁としえませんから(民法419条)、遅延損害金は支払わなければなりません。判例は、一貫して、年6%(商事法定利率)の利率としています(最高裁1955年9月29日判決など)。 労働者としては、労働組合に相談するなどして、使用者と交渉し、それでも駄目なら、法的手続きをとることになるでしょう。賃金債権は、先取特権を有するなど、一般債権に比して優先権を有していますので、使用者の財産(売掛債権なども含む)を調査の上差押える方法を考えて下さい。 詳しくは御相談下さい。 Q3.使用者から、震災を理由に労働者に一時帰休(休業)を命じられましたが、労働者の賃金はどうなりますか? A3.震災を原因とする場合には休業手当の請求をすることができませんが、雇用保険や雇用調整助成金が利用しやすくなりました。 <解説> 労基法上の休業手当は、使用者に平均賃金の6割以上の手当を支払わせる制度ですが、そのためには「使用者の責に帰すべき事由による休業」であることが必要となりますので、残念ながら震災の場合はその適用がありません。 しかし、今回の震災を受けて、休業中の者も雇用保険を受給できるようになりました。また、雇用調整助成金も受給しやすくなりました(厚生労働省HPを参照ください)。今後も流動的に政策が変わることが予想されるので、注視していきます。 【参考】厚生労働省HP 平成23年3月28日付職保発0328第1号福島原子力発電所の影響を踏まえた激甚災害法の雇用保険の特例措置の取扱いについて 東北地方太平洋沖地震被害に伴う雇用調整助成金の活用Q&A Q4.賃金確保法では、未払い退職金の支払いも受けられるのでしょうか。退職金規定はあるのですが、地震のためその賃金規定がそろえられないときはどうなりますか。 A4.予め支給基準が明確にされている退職金は、賃金として請求することが可能です。 <解説> (2)賃金確保法によれば、実際立替払いがなされる賃金の額は、退職日の6ヶ月前の日以後立替払請求日の前日までの期間において支払期日が到来している通常の賃金および退職金であって、労働者の年齢に応じた上、限額の範囲内で立替払い対象未払い賃金分の80%が支払われます。すなわち、30歳未満の労働者には70万円×0.8、30歳以上45歳未満の労働者には120万円×0.8、45歳以上の労動者には150万円×0.8を上限として支払われることになります。 そして、労働者としては、未払い賃金等について裁判所や破産管財人等から証明を受け、または労基署長からの確認を受け、その証明・確認をもって労働福祉事業団に請求を行うことになります。 従って、賃金規定がそろわなくても上述の証明・確認がなされれば未払い賃金の立替払いについて支障はありません。 また、就業規則には賃金に関する規定を定めておかなければならず(ただし、別に賃金の規則を作成することも可能)、この就業規則は所轄の労基署に届けておかなくてはなりませんから、賃金に関する規定については労基署で調査可能と思われます。さらに、使用者には労基法上、賃金台帳等の作成・保存義務が課せられていますから、この賃金台帳で賃金規定を代替させるということも考えてよいでしょう。 |