震災と労働法Q&A
解雇・退職・倒産
休業・一時帰休
賃金・残業
その他

Q1.被害の復旧その他の業務上の必要から残業・休日出勤を命じられた場合、無条件で応じる必要がありますか。(Q1の解説はこちらへ

Q2.通勤途上に地震災害に遭いました。労災保険の適用は受けられるのでしょうか。また、労働者が業務中、今回の地震のために被害を被ったとき、労災の適用が受けられますか。(Q2の解説はこちらへ

Q3.地震によって出勤できなかった労働者が不利益を被ることはありませんか。(Q3の解説はこちらへ





Q1.被害の復旧その他の業務上の必要から残業・休日出勤を命じられた場合、無条件で応じる必要がありますか。

A1.本当に非常時である場合を除いては、無理に従う必要はありません。時間外労働をした分については、もちろん割増賃金を請求することができます。

<解説>
今回の地震のような非常災害時に時間外・休日出勤命令を出されるケースは多いと思われます。 労働基準法(以下「労基法」)は原則として、法廷時間外あるいは休日に労働させることを禁止していますが、非常災害時はその例外としています。 @災害その他避けることのできない事由が存すること、A臨時の必要が生じること、B原則として事前に労働基準監督署長の許可を受けること (ただし、事態急迫の場合は事後遅滞なく届出が必要。)、C必要限度内であることの4つの要件のもとで時間外労働等をさせることができるとしています。

このような場合には、使用者は刑事罰を免れることができるだけです。 したがって、このような就労義務を労働者に課すには、原則として労働契約、労働協約および就業規則により非常時労働義務が明示されていることが必要です。

一方、それらに非常時労働義務が明示されていない場合については、道義的義務にとどまり、法的義務は負わないという見解もありますが、信義則上の義務として、 あるいは黙示の合意により法的義務が生じると解するのが多数説です。もっとも、非常時における時間外労働等はあくまでも例外ですから、要件は厳格に解されており、 例えば「臨時」とは、「橋が倒れ掛かっているので直せ。電気・ガス・水道の復旧が急がれているから」というような客観的合理性のある場合に限られます。

なお、事態急迫の場合は事後遅滞なく労働基準監督署(以下「労基署」)に届出が必要で、労基署がその時間外労働等が不適当だと認めたときには、その後に該当時間に相当する休憩または 休日を与えることを使用者に命じることができ、この命令に使用者が反すると罰則があります。

また、非常時の時間外労働等でありますが、時間外労働にはかわりありませんから、当然のこととして割増賃金の請求ができます。 これは事後に不適当と判断されたとしても、既に行われた時間外労働等についても請求できます。

Q2.通勤途上に地震災害に遭いました。労災保険の適用は受けられるのでしょうか。また、労働者が業務中、今回の地震のために被害を被ったとき、労災の適用が受けられますか。

A2.労災保険給付を受けることができます。

<解説>
従来、厚生労働省は「その天災地変が非常な強度を有していたため、かかる要因の有無に関係なく、一般に災害を被ったという場合(例えば、大震災等による災害)には業務起因性が認められない」(1974年10月25日基収2950号)として、 天災地変による災害の場合はたとえ業務遂行中発生したものであっても、労災保険給付の対象とはしないとの立場に立っていました。しかし、今次の震災に関しては、被災者からの労災保険給付申請に対し、弾力的な運用を図っていく方針を明らかにしています。

【参考】厚生労働省HP
東北地方太平洋沖地震に係る業務上外の判断等について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015j3l.pdf
東北地方太平洋沖地震に伴う労災保険給付の請求に係る事務処理について(基労補発0311第9号平成23年3月11日)
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T110316K0010.pdf

Q3.地震によって出勤できなかった労働者が不利益を被ることはありませんか。

A3.地震のためにしてしまった欠勤や遅刻を理由に、懲戒事由や賃金査定の不利益を被ることはありません。

<解説>
その出勤不能は、不可抗力に基づくものですから、その無断欠勤を懲戒事由や賃金査定の不利益にすることはできません。

欠勤が継続したことを理由とする解雇は、その欠勤が止むを得ないと認められるものである限り、解雇権の濫用に当たります。 止むを得ない無断欠勤によって会社に対して損害を与えたとしても、労働者には過失がありませんから債務不履行責任は負わないと考えられます。