『絶対内定』シリーズの一冊で、他に『絶対内定 エントリーシート・履歴書』など4冊のシリーズ本がある。シリーズで毎年10万部の発行部数を誇っている。 著者はキャリアデザインスクール「我究館」の開設者であり、現在もコーチとして教壇に立ち、個別面談も行っている。
本文中では、著者の就職活動・転職・起業の経験や我究館のOB/OGの実例を挙げて、就活生をやる気にさせる熱いメッセージが語られている。 うわべだけ、その場しのぎのテクニックやノウハウは一切否定される。521ページという分厚さからも熱意や本気さが伝わってくる。 構成は前半が働くとはなにか、就職活動とはなにかに充てられ、後半は我究を実際に行うためのワークシートという形になっている。 この本では「我究」することが重要であると繰り返し説明されている。そして我究がしっかりできれば、ほぼ「絶対内定」できると主張する。さ らに、我究は就職活動のときのみに有効なものではなく内定後・就職後も重要で、たとえ我究の結果就職活動を選択しなくても意味のあるものだとしている。 この「我究」というのは就職活動において有用とされる自己分析とは一線を画するもののようだ。本文中では我究とはなにかについてはっきりとふれた部分はないが、 出版社のHPでは以下のように説明される。
―「我究」とは、いわゆる自己分析で自分を知るということにとどまらない。
「自分の未来=夢」を描き、それを実現するために「自分の価値(自価)」を高めていく作業が、我究だ。
まずは、これまでの人生の棚卸しにより、「培ってきたもの」・「ウリ」・「弱み」・「価値観(生きる姿勢)」を把握する。この時点できっちりと自分と対峙する。
次に、「理想の自分(人間性)」・「手に入れたいもの」・「社会に与えたい影響」などの未来を描く。もちろん、社会がどう動いていくかを予測することも忘れてはならない。
その上で、「現状突破」と「ビジョン実現」のためのアクションをしていく。
人生そのものを輝けるものにしていくこの作業こそが、就職活動においても絶大な力を発揮するのだ。
つまり、自己分析するだけでなく、将来のビジョンを持つことや「デキルやつ」になるための努力(29カ条があげられている)などもふくめて「我究」なのである。
この本の意義というのは読んで自分をやる気にさせること=自己啓発にあるのだと思われる。 アツい言葉に共感し、実際に行動を起こす原動力とすることができる人にとっては有用な本になるだろう。 「我究」は「人生そのものを輝けるものにしていく作業」であり、就職活動の域をはるかに超えているのだが、 ワークシートなど実践的なところでは、「志望動機のブラッシュアップ」「自己PRの整理」というように単なる一般的な自己啓発でなく就職活動に焦点を当てた指導がされている。 ノウハウにテクニックにはしるなという一貫した主張、「漫然と時期が来たから就活する」「就職活動で役に立つらしいから自己分析する」という考え方ではいけないという点はうなずける。
気になる点として、就職活動に必要なものを論理的に分析してアドバイスするというより(真面目に分析したうえで答えはないのかもしれないが)は メッセージの「アツさ」と「アツく」なって成功した我究館OB/OGの実例で押し切っている感がある。 我究で求められるものが、ほとんど人生で必要とされること全般であり、越えるべきハードルはかなり高い。 そのために「アツい」メッセージについてきてきちんと「我究」を極められる学生がどれほどいるのかは疑問である。 また、紹介されている例は商社やマスコミといったいわゆる超難関の一部企業のものが多い。毎年10万部を売り上げるこれらのシリーズだが、すべての就活生向けではないように思う。
【本の概要】
著者名:杉村太郎
書名:『絶対内定2012―自己分析とキャリアデザインの描き方』
出版社:ダイヤモンド社
出版年:2010年6月