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「style3」 〜第3の道へ〜

雇用の不安定化

  近年「終身雇用」と呼ばれていた長期勤続のシステムが崩壊し、離職率の高まりが問題となっています。そのためかつてのシステムへ戻そうという議論も一方で強まっています。しかし、「終身雇用」を一つの軸とする、かつての「日本的経営」は、決して最良のシステムだとはいえません。

  日本的経営は非正規雇用を不安定にし「景気の調節弁」とすることによって正社員の安定した雇用を維持してきました。しかも、「終身雇用」はただ安定した長期勤続が得られるというだけではなく、一つの会社に全生涯を捧げなければならないという、企業への従属をも含意しています。もしそれを受け入れなければ、「非正規社員」として、不安定・低賃金の下に著しく差別されてしまうのです。

  私たちは雇用の流動化の高まりに対し、「終身雇用」でも「不安定雇用」でもない「第三の道」を提案していきたいと思います。

企業社会の問題点

  これまでの年功賃金は、一生同じ会社で働き続け、やがて昇進することを前提として、若年社員の賃金を著しく低めるものでした。しかし、毎年昇給していくためにそうした不満があらわになることはありませんでした。しかも会社を辞めて、その徐々に賃金が上がっていくシステムの外に出てしまったら、それまでせっかく耐えてきたものが全て無駄になってしまいます。だから日本の労働者は長時間のサービス残業も、理不尽な単身赴任も、あるいはいじめやパワハラも、耐え続けるしかなかったのです。

  「終身雇用」が当たり前の社会では、辞めた人間が差別されるだけではありません。ドロップアウトすることによる差別を恐れ、超長時間労働やサービス残業が黙認されてきました。それどころか、退職を申し出た社員に対し、賃金が支払われなかったり、直接的な暴力がふるわれるケースも少なくありません。当然これらは全て法的に犯罪です。

  辞めて差別されることも、辞めないで耐えることも、両方が若者の生活と精神を蝕んでいく。こうした中で、職場での「メンタルヘルス」の悪化も社会問題化してきています。

変化した「企業社会」

  とは言え、これまで日本で「一生一つの会社で働かなければならない」という議論が受け入れられていたのは、一生一つの会社に尽くせばそれなりの見返りがあったからです。終身雇用・年功序列と会社人間はセットでした。サービス残業や単身赴任がある一方で、解雇されることはめったになかったし、正社員だけが受けられる「企業内福祉」の恩恵にもあずかれたのです。

  しかも、正社員であれば社会の中で信用が得られ、例えばローンを組んだりするときにも、多大な利益がありました。ところが現在、企業は終身雇用や年功序列を若者に対して放棄しています。もし一生を捧げるつもりの若者がいたとしても、今や企業は雇用を保障するとは限りません。企業の「解雇権」を認める法案や判例も増えています。

「第3の道(「style3」)」へ

  これまで日本の雇用は一生同じ会社で働き続ける「正社員」と、そうではない非正社員に分けられてきました。そして非正社員の待遇は大きく差別されてきました。「自由」と引き替えの、低賃金で不安定な非正社員か、収入の安定を代償にしたどんな状況にも耐える正社員か、という二分法です。私たちに与えられた選択肢はたったこの2つのみでした。いまこの状況を変えるために、私たちはもうひとつの、第3のライフスタイルを提案します。そのための施策を、以下に提案します。

1,雇用の平等
  日本の法律は「正社員」と「非正社員(契約、派遣、パートなど)」の差別を明確に禁止していません。明確に「均等待遇」の規定を行わなければならないでしょう。具体的には、派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇、有期雇用(契約社員)と正社員の均等待遇などです。これらを、賃金から社内の福利厚生に至るまで明記しなければなりません。

2,年功賃金から職種別賃金へ
  しかし、福利厚生や退職金・ボーナスといったものを平等にするのは当然としても、賃金そのものの「均等」を実現するためにはその基準が必要となってきます。これまで日本では、「学歴」、「何年働いたか」(年功)、「男性であるか女性であるか」、「属するコース(総合職、一般職)」、「雇用形態」、などによって人材の「潜在能力」を評価し、賃金を決定してきました。これらの基準の特徴は、仕事の評価を具体的なシゴトの内容ではなく、労働者個人が「どのような人間か」を評価するということです。

  しかし、勤続年数や所属するコース、学歴、雇用形態などで賃金を決めることは理にかなっているとはいえないでしょう。人自体を評価すると言っても、それはとても曖昧で恣意的なものになりがちです。それよりも違いが明らかで誰でも納得できるように、賃金の評価はシゴトの内容で決めるべきです。賃金額の差異はこうしたシゴト自体の評価を合理的に分類し、定めることができます。欧米ではすでに、使用者がそうしたシゴトと賃金額の差異の理由を合理的分類によって示すことを法律で義務づけています。シゴトの合理的評価が義務づけられることによって、正規・非正規の差異は意味を失い、均等待遇への道筋を作ることができるはずです。

3,公的職業訓練
  さらに、シゴトを基準に賃金を決めるために、職業訓練制度の充実と職務資格制度の拡充が必要になります。職務を基準に賃金を決めようにも、これまでの日本ではシゴトの訓練のほとんどが、個別企業ごとに行われる、いわゆる「オン・ザ・ジョブ・トレーニング」でした。これは正社員のみを対象とするもので、非正社員は何年働き続けてもキャリアとして認められません。この制度を、正社員が会社を辞めても、あるいは非正社員でも企業の外で、シゴトのスキルを習得できるシステム=「オフ・ザ・ジョブ・トレーニング」に切り替えていくことが必要なのです。

  具体的には国や自治体による無料の職業訓練システムや、国家資格制度を整えていくことが考えられます。このように書くと、「職業訓練で実践的なシゴトができるようになるはずがない」という批判をよく受けます。しかし、それはこれまでの日本社会の想像力の中にとどまっているからです。例えば、ヨーロッパ諸国と日本で、職業訓練にかけている費用を比べてみると、GDPに対する比率で50〜100倍もの差があるのです。公的職業訓練で、事務職・技能職を問わず、かなりに水準まで達することができるということです。

4,国家規制
  さらに、転職時の生活を安定させるため、雇用保険制度の整備も不可欠です。例えば、「自己都合」の離職と判断された場合でも、失業保険給付をしっかり受けられるようにする必要があります。加入要件を緩和し、給付水準や期間自体も拡充が求められます。

  雇用保険制度に合わせ、生活保護の充実も必須です。現状で、非正規雇用労働者はフルタイムで働いたとしても、生活保護水準以下の収入しか得られないこともあります。海外で一般的に行われているような、働きながら収入が不十分な部分は生活保護制度で補助していくという仕組みが求められます。

  同時に、最低賃金の引き上げも重要です。最低でも時給1250円以上は譲れません。どんな働き方をしても、最低限の生活はできる制度を早急に作らなければならないのです。こうした社会福祉の充実は、働く人が企業と交渉する際、とても重要な役割を果たすことになります。国家による福祉が無くては企業から離れたとき丸裸ですが、福祉があることによって、転職が容易になり企業と交渉することができるようになるのです。

5,ユニオンによる規制の必要
  シゴト基準の賃金や雇用のあり方をつくるために、もっとも必要なものが産業別ユニオンの形成です。実は、すでに紹介したように最近では企業の方から職種別賃金へ向かう動きが生まれています。財界が狙っているのは、これまでのような一つの企業の中で確立された年功的賃金体系から労働者を企業外に追い出し、その中で競争させることによって(労働市場圧力)、賃金を引き下げようというものです。こうした競争原理にさらされる中では、職種別の賃金も「ルール」としては確立せず、労働者間競争の中で低下の一途をたどるしかありません。

  そこで必要になるのがユニオンによる産業横断的な賃金規制です。職種別・産業別に組織された労働組合が使用者団体との交渉で、職種別賃金のラインをルールとして定めることによって、競争を抑制し公正な賃金体型を確立することができます。つまり企業の側も日本型経営からの脱却を図っており、今こそが新しいより公正な賃金体系へ移行するチャンスなのです。

  しかし、日本の労働組合(=ユニオン)は、これまで企業別に作られてきました。そのために、労働者のためのユニオン自体が企業の利害に巻き込まれてしまいました。つまり、労働条件を挙げて欲しければ、企業に従い、サービス残業を受け入れろ、という理屈を丸飲みにしてしまったのです。欧米で形成されている産業別・職業別労働組合は、企業を超えて、産業ごとに企業と交渉します。そうすることで、一つの企業の利害とは関係なく、シゴトを基準とした労働条件を産業ごとに確立することができるのです。

  さらに、産業別・職種別に組織された労働組合は国家の政策への介入もできます。全国最低賃金ラインの設定や、生活保護の取得促進など国家による社会政策の課題も、労働組合の確立という文脈で実現していくことができるのです。こうした産業別・職種別ユニオンの形成を促していくことも、今後必要な課題です。



  私たちの提言する「第3の道」は、会社の規模や、会社への忠誠心、そして正規・非正規によって人間の評価が決まる社会から、シゴトの内容を基本とした社会への転換を目指したものです。それは、「3年で辞めてもいい」社会です。「自由」を犠牲にした正社員か、安定を得られない非正社員かの二者択一を迫られません。自由に職場を選択し、なおかつ安定して生きられる、そんなライフスタイルです。私たちはそれを「style3」として、提案します。