2013/12/11
これがワタミの「真摯な対応」?渡邉美樹議員は過労死遺族に何をしたのか

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sakakura

雑誌『POSSE』編集部 坂倉昇平


ワタミグループの居酒屋ワタミフードサービスで2008年、入社二ヶ月で新入社員が過労自殺する事件が起きた。その遺族が12月9日、元代表取締役の渡邉美樹氏らを相手取って提訴した。
それに先駆けて、8日に渡邉美樹氏は自分のフェイスブックにて次のように発言している。


 労災認定されたことを勿論受け止め、経営者として一生忘れられない、猛省すべき出来事であったことを認めた上で、ワタミからご遺族に具体的なご提案をするなど真摯に対応してまいりました。
 (https://www.facebook.com/photo.php?fbid=224493444341598&l=ab5db75060


本当だろうか?
そこでこの記事では、渡邉美樹氏やワタミ側が、この過労死事件に対して、そして遺族に対して、どのような発言や対応をしてきたのかを振り返ってみよう。


@「労務管理できていなかったとの認識は、ありません。」


労災が認定された直後の2012年2月、渡邉氏はtwiterで以下のようにつぶやいている。明らかにワタミ側の責任を認めようとしていない。


 「労災認定の件、大変残念です。四年前のこと昨日のことのように覚えています。彼女の精神的、肉体的負担と仲間皆で減らそうとしていました。労務管理できていなかったとの認識は、ありません。ただ、彼女の死に対しては、限りなく残念に思っています。会社の存在目的の第一は、社員の幸せだからです」
 (https://twitter.com/watanabe_miki/status/171926030666309632


A遺族との面会の条件は「一回だけ、録音は不可、支援者の同席は認めない」


遺族は労災認定後、ワタミと和解交渉をおこなった。
ところが、ワタミ側は代理人を通じて「直ちに会社の安全配慮義務違反には当たらない」と主張、過労死の原因にも、再発防止策にも明確な回答もなかった。
そこで遺族は2012年9月、10月、11月と、数度にわたり渡邉氏との直接の面会を申し入れた。二回目からは個人加盟の労働組合に加盟し、団体交渉の申し入れという手法もとった。
しかし、ワタミ側は拒否を続け、最終的に一方的な条件を突きつけてくることとなる。渡邉氏との面会は一回だけ、録音は不可、労働組合など支援者の同席は認めないというのだ。一度限りの孤立無援の密室で、一体どのように誠実な話し合いができるというのだろうか。
この経緯は、遺族の支援をしている東京東部労組のブログに詳しい。


B加害企業なのに、被害者に対して調停の申立て


遺族の抗議を受け、早くも11月下旬にワタミ側は強行手段に打って出た。
損害賠償請求を確定するために、名古屋地方裁判所に調停の申し立てに踏み切ったのだ。
過労死の加害企業が被害者側に対して法的措置を取ることは極めて異例であり、金さえ払えば問題ないだろうと言わんばかりの対応である。


C調停でも不誠実な対応


とはいえ、調停委員会という司法の場が設けられたことにより、ワタミ側は遺族の質問から逃れられなくなった。しかし、調停でもワタミ側は責任を認めようとしない。そればかりか、遺族が亡くなった娘の過労を悪化させた原因である、勤務地から社宅が遠いことや、ワタミで行われる早朝研修のおかしさを問いただすと「貴重なご意見として承らせていただきたいと思います」と繰り返すなど、不誠実な対応を続けたのだった。


D週刊誌ではなく遺族にだけ抗議


遺族が6月11日発売の週刊誌『アサヒ芸能』でその不誠実な対応を紹介したところ、ワタミ側はすぐに、さらなる恫喝に出た。調停委員会への上申書(6月18日付)で、記事について「事実と異なる」「調停を否定する行為であり極めて残念」と遺族に抗議したのだ。しかも、誌面が虚偽であるとしながら、ワタミは『アサヒ芸能』や徳間書店には何の連絡もしていない。


E「不当な要求には答えられません」


それどころか、渡邉氏は2013年夏の参院選の最中、この過労死事件について、ある対談で次のように述べている。過労死遺族の声を「不当な要求」と実質的に非難し、批判の矛先を遺族や週刊誌などに向けている。


 「少なくとも3万人のアルバイト、社員の中で、この29年の中で、残念ながら不幸なことが起きたわけです。この不幸なことに対して、我々は真っ正面から向き合っています。(略)しかし真っ正面から向き合ってるにもかかわらず、仮にですよ、ここに不当な要求があったとしたらですよ、当然7万人の株主を背負っている人間としては、不当な要求には答えられないわけですよ。不当な要求には答えられません、ということで答えない。そのことによって(略)書きたい放題になる。日本というのは本当に民主主義なのか」
 (http://www.youtube.com/watch?v=4i6-6_wA_0w


F「なぜ採用したのか」


これ以外にも参院選前後、渡邉氏は過労死事件について労働問題を無視し、偶然の事故であり、亡くなった本人の資質の問題であるかのような発言をしている。


 なぜ採用したのか。なぜ入社1カ月の研修中に適性、不適性を見極められなかったのか
 (http://www.asahi.com/senkyo/senkyo2013/news/TKY201308010413.html


これだけの対応をしておいて、「労災認定されたことを勿論受け止め」「経営者として一生忘れられない、猛省すべき出来事であったことを認め」「ワタミからご遺族に具体的なご提案をするなど真摯に対応してまいりました」という言葉はないだろう。



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