2013/7/1
生活保護改正案の問題点(『POSSE』vol.19)

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POSSE vol.19


『POSSE vol.19』が発売されました。今回はそのなかから生活保護改正案について検討した大西さんの論文を紹介します。


6月26日、国会の閉幕に伴い生活保護法の改正案が廃案となりました。しかし、改正案で示された考えは多くの問題をはらんでいます。この法案は、今後の生活保護制度にどのような影響を与えうるものだったのでしょうか。


現在の社会保障改革の方向は、「自立ベース」「自己責任」「家族の扶養」といったキーワードで特徴づけられ、国による生活支援である「公助」を縮小する傾向にあります。生活保護法改正案も、その流れの一貫として出現しました。


今回の改正法案では、生活保護への入口部分で受給を困難にし、出口部分で打ち切りを容易にする変更が加えられています。


まず、申請手続きの厳格化です。生活保護の申請は、口頭で申請の意志を示すだけで良かったのですが、申請のための書類を本人が用意しなければならないとされていました。


これにより、申請そのものを認めない違法な「水際作戦」が行われたとき、「書類が用意されていなかったので」ということで、窓口の対応が法的問題に問われなくなってしまう可能性があります。


次に、扶養義務の強化です。これまでの扶養義務者への情報照会に加え、関係各所への調査も行えるようになります。これによって、親族に知られたくない、迷惑をかけたくないと思う気持ちから、申請をためらってしまう人が多く出るという懸念があります。


また、不正受給の返還金の上乗せ(受給金額の140%を返還要求することが可能)や罰則規定の引き上げ(30万円以下から100万円以下に引き上げ)など、不正受給への厳罰化も含まれています。しかし、実際の不正受給は金額的には0.5%程度しかなく、それも高校生のアルバイトなどの意図しない収入の申告漏れが多いといわれています。以上のように入口を規制しても悪質な不正受給は防げず、本当に制度を必要とする人が締め出されてしまう弊害の方が大きいといえます。


更に、受給中の管理を強化したり、打ち切りを促進するような変更もされています。生活保護受給者は、就労から6ヶ月ほどで必ず就労するように追い立てられ、保護を打ち切られている現状があります。受給者のうち働けるのは18%ほどですが、この就労圧力は受給者にとって大きなプレッシャーとなります。


日本は社会保障制度が十分に整備されていないため、生活保護制度が生活困窮者を支えるほとんど唯一かつ最後のセーフティネットになっています。このまま社会保障削減や生保法改正法の議論が拙速にすすめられることで、社会全体のセーフティネット全体が崩されることになりかねません。


必要な制度を考えるときには、財政的な持続可能性だけではなく、生命の持続可能性を考えることが優先されるべきです。人々の生活やいのちを支える社会の役割を放棄しようとする今回の生活保護法改正法案には、はっきりとNOと言わなければならなりません。


今回のような生活保護の改正案は参院選後に再び現れてくることも考えられます。どのような問題点があったのか、その理解を深めるためにも、ぜひ一読してください。


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POSSEとは

『POSSE』は日本で唯一の若者による労働問題総合誌として、2008年9月に創刊しました。NPO法人POSSEのスタッフが中心となり制作し、これまで16巻を出版、4年目を迎えました。労働・貧困問題をテーマに、現状、政策から文化までを論じています。

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