2013/5/7
「作られた「不正受給」」(『POSSE vol.18』)

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POSSE vol.18


今回は『POSSE vol.18』から「作られた「不正受給」―犯罪取り締まりではなく、福祉の専門家による支援の必要性」を紹介します。


平成25年3月27日、兵庫県小野市で、生活保護などの受給者がギャンブルやパチンコをしていた場合に市民に通報を義務付ける、「福祉給付制度適正化条例」が成立しました。「不正受給」に関する報道もあいつぎ、生活保護受給者に対する社会の目は非常に厳しくなっています。しかし、「不正受給」には、高校生のアルバイト収入の申告漏れなど、福祉事務所のケースワーカーの説明不足により、収入の申告をしなければいけないことを知らなかったという場合が多いと言われています。このルポで取り上げた事例でも、やはりケースワーカーの支援不足によって「不正受給」が作り出されていました。事例の詳しい内容は京都POSSEブログにも掲載しています。


昨年の11月、京都POSSEは生活保護受給者の方から相談を受けました。相談者のAさんは大阪市天王寺区の友人宅に居候という形で住んでいましたが、病気で働けなくなり、2012年3月に生活保護を申請しました。保護開始が決まり、天王寺区内のアパートも借りました。しかし、生活用品の多くが友人宅に置いてあったので、そのまま友人宅で生活していました。その後、通院しながら生活保護を受給していましたが、2012年の11月に区役所に呼び出され、保護を打ち切ると伝えられました。理由は保護開始時に入居したアパートに「居住実態がない」からだとされ、「不正受給」として約30万円の返還を求められたのです。


Aさんに対する保護の打ち切りには、さまざまな問題点がありましたが一番の問題は、ケースワーカーが最初からAさんに必要な支援を行っていれば、今回の事態は防げたはずだということでしょう。Aさんは友人宅で生活していることを、受給開始当初から担当のケースワーカーに伝えていましたが、生活保護で引っ越し費用を支給できるという説明はありませんでした。自宅で生活する必要があることを具体的に説明し、障害となっている荷物の移送については引っ越し費用を支給するという対応をとっていれば、制度の趣旨から言えば不適切な状態は生まれませんでした。Aさんの「不正受給」の根本的な原因はケースワーカーの支援不足にあると言えます。


Aさんからの相談を受けた京都POSSEは、Aさんと一緒に天王寺区と交渉し、保護の打ち切りの決定を撤回させました。区は引っ越し費用も支給し、Aさんはアパートでの生活を始めています。


「不正受給」の増加を理由として、福祉の専門知識が乏しい警察OBが窓口に配置されるなど、取り締まりが強化されています。しかし、ケースワーカーの支援不足が「不正受給」を生み出しているならば、必要なのは十分な数の福祉の専門家をケースワークの現場に配置することでしょう。生活保護受給者に対する監視の強化では、「不正受給」はなくなりません。感情的な議論に流されず、これからも『POSSE』では生活保護の実態を伝えていきたいと思います。



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『POSSE』は日本で唯一の若者による労働問題総合誌として、2008年9月に創刊しました。NPO法人POSSEのスタッフが中心となり制作し、これまで16巻を出版、4年目を迎えました。労働・貧困問題をテーマに、現状、政策から文化までを論じています。

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